仙台高等裁判所 昭和47年(行コ)4号 判決 1974年3月13日
控訴人
宗像徳弥
右訴訟代理人
伊藤清
被控訴人
長窪宗平
右訴訟代理人
安田純治
大学一
主文
原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人の、その一を被控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
第一控訴人が、昭和四三年及び昭和四四年当時、小野町々長として、地方自治法に基づき、同町の事務を管理執行する職にあつたところ、その管理にかかる、同町々有普通財産である本件物件を、昭和四三年九月九日、訴外株式会社デアボロ(後、ヴアンクロージングと商号変更)に、代金三六六万円で売渡し、昭和四四年七月一一日その旨の所有権移転登記手続がなされたこと、被控訴人が、肩書住所に居住している同町の住民であり、地方自治法二四二条に基づき、同年九月五日、本件売買契約につき、監査請求をなし、同月一四日、右監査結果の通知を受領したこと、はいずれも当事者間に争いがない。
第二当裁判所も、本件売買契約における売価が不適正であり、かつ、同契約の締結行為が、控訴人の小野町々長としての、いわゆる専決権の濫用にあたり、したがつて同売買契約の締結は違法であつて、その違法は、原審の口頭弁論終結当時まで治癒されていないものと判断するものであるが、その理由は、次の点を付加するほかは、原判決のこの点に関する摘示(原判決理由欄二の全部・したがつて、その3の、条例第三号三条所定の予定価格の解釈及びそれに基づく、本件売買契約が、議会の議決事項にあたらない旨の摘示も含む)と同一であるから、これを引用する。《付加部分、省略》
第三ところで、本件の如く、その売価が不適正で、かつ、本件売買契約の締結が、控訴人の、いわゆる、専決権の濫用である場合でも、これにつき、議会の議決を経たときは(専決権の濫用とされる場合はすべて事後、売価の不適正の場合は事前、事後)、右の各瑕疵はいずれも治癒されるものと解するのが相当である。
けだし、右議決は、本件売買契約が地方自治体の財産を無償または特に低廉価で譲渡することにより、地方自治体がこうむる、財政運営上の多大の損失、特定の者が受ける利益、ひいては、住民の負担の増加と地方自治の阻害等の防止をその立脚目的とした、地方自治法九六条一項六号、二三七条二項の規定の趣旨に反するものではないこと等を、公に承認(追認)したものと、いうべきであるからである。
そこで右議決の有無についてみるに、<証拠>によると、控訴人は、小野町々長として、昭和四七年六月二三日開会の同町議会に対し、本件売買契約による本件物件の処分について、地方自治法九六条一項六号による、同議会の承認の議決を求める旨の議案を提出したところ、同議会は同日、右議案につき討論の後、出席議員数二〇名(議長を含む)のうち賛成一八名反対一名の評決をもつて右議案を承認する議決をしたことが認められ、これに反する証拠はない。
右認定の事実によると、本件売買契約における、売価の不適正性、及び同契約締結についての控訴人の専決権濫用の瑕疵はいずれも治癒されたものというべきである。
なお被控訴人は、地方自治体の長がなした違法な財産処分と議会の議決との関係に関する判例として、最高裁大法廷昭和三七年三月七日判決(民集一六巻三号四四五頁)を援用するが、同判決の事例は、地方自治体の長がなした違法な公金の支出に関するもので、その支出行為自体議会の議決の有無にかかわらず、本来違法(したがつて、議決自体も、違法支出という違法事項を目的としているため違法であると解される)であるに対し、本件は地方自治法九六条一項六号、二三七条二項の規定からみて、議会の議決(その事前、事後を問わない)があれば当然に適法行為とされる場合であるから、右判例は本件とはその事例を異にするので参考に供することができない。《以下、省略》
(三浦克巳 伊藤俊光 佐藤貞二)